KIA きあ

APR 29,2004 1:ヤだよ。こんな罰ゲーム。 
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 キアはほっぺを膨らませて、手の中に残ったババを見つめた。
「うぅー、絶対変だよっ! みんなずるしてるっ」
 たった今キアは、トランプゲームで大連敗中だった。
「キアはお子様だから、騙したりは下手なんだよな〜」
 どっと笑い声が教室を揺らした。
 苦虫を潰したような顔で、キアが膨れている。
 実際キアはみんなよりも二回りは小柄だった。
 窓から入ってくる風に金色の髪が舞う。空よりも青い瞳は、心なしか涙ぐんでいた。
 キアは三年分、飛び級をしてこのクラスにやってきた。
 十五歳〜十八歳の中に、ひとり十三歳の子供が混ざっていると、何かとからかい対象になった。
「さーって、男の尊厳をかけたゲームに負けたわけだけども、キア君。覚悟のほどは?」
 キアの目の前に置かれたのは女子の制服だった。
 うぐぐ、とキアが歯を食いしばった。
 キアの隣に座っていたロンが、見かねた様子で囁いた。
「嫌なら俺が止めようか?」
 ロンはキアと同室のルームメイトで、キアの実習でのペア相手だった。
 年は十六、もちろんキアよりも大きい。
 でもロンはこのクラスで一目置かれている存在だった。
 彼が皆に言えば、この罰ゲームは無かったことにできる気がした。
 でも……。
 キアは制服を掴んで立ち上がった。


 最後にスパッツの上からスカートを履いて、キアは恥ずかしさで胸がいっぱいになった。
「誰だよーっ、こんな罰ゲーム考えたのはーっ」
(お・れ)
 ロンは心の中でそっと、キアの質問に答えた。
 元々同輩連中との会話で、”キアは女物の服が似合うんじゃないか?”と言い出したのがきっかけだった。
 白い生地に、紅いラインと同色のリボンをアクセントにした制服は、キアには少し大きい。
 袖から指先がちょんと覗かせていた。
 予想以上に似合っているので、皆の目が呆然としてた。
 キア自信は、さぁ笑えといわんばかりにほっぺを真っ赤にして、仁王立ちになった。
「そうだなぁ・・・もう一つ」
 ロンはキアの隣に立つと、その胸のリボンを解いて、柔らかい金髪に結びつけた。
 スカートから白い足が覗かせる。
 訓練で擦りむいた跡やアザが残っていなければ、いや、残っているのにキアは充分以上に女の子だった。
「いいなっ。もう脱ぐぞっ」
 あっと止める間もなく、キアはスカートに手をかけた。
 女子制服の上とスパッツの姿を見て、ロンは一言。
「……これはこれで
 ぴたっ。キアの耳は、ロンの言葉をしっかりと捕らえていた。
 キアが、振り向きざまに左腕を勢いよく振り上げた。
 拳はロンのあご先を正確に弾き上げた。
 体格差をタイミングとスピードで補った、見事な一撃だった。
「こんな真似、女にはできないんだからなっ」
 脳震盪起こしかけてるロンは、キアの言い分を聞くどころではない。
 やれやれと教室の誰もが肩をすくめた。


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――――数日後。

 二人机が並び、ペアを組んでいる者同士が並んで座っていた。
 教官が全員がそろっているのを確認すると、次の実習地先候補のリストが配られた。
 今回の実習目的は一般人に偽装し、情報収集や用心護衛に生かすこと。
 同じ実習地に何人も送るわけには行かないので、沢山のリストが並んでいた。
「では、皆で話し合って誰が何処に行くのが適任か決めるように」
 それだけ言うと、教官はバインダを手にして、教室の隅の鉄パイプに腰掛けた。
「1チームでも失敗したら、連帯責任…ってことだな、ありゃあ」
 ロンのぼやきを聞きつけて、取り合いを始めようとしていた連中が手を止めた。
 任務の失敗は、地獄のしごきが待っている。
 全員真剣な顔でリストに目を通した。
 宅配ピザ、ビル清掃、一般学生…地方興行中のバンド…。
「バンドかぁ。いいなぁコレ。俺がギターをやれるから…あと何人か楽器の出来る奴を」
 ロンが目算を立てながら、ふと顔を上げると全員の視線が自分たち…正確には隣のキアに集まっていた。
 キアは真っ青な顔をして首を横に振っている。
「……?」
 ロンは手の中のプリントに目を落し、爆笑した。

――――エルセス女学院。何処をどう読んでも”女子高”が混ざっている。

 笑いながらロンはキアの背中を叩いた。
「いやぁ、これはもうキアが行くしかねぇな。うん。後の連中がやったら一発でばれる」
 やるなぁ。ちゃんと生徒の向き不向きを考慮したリストになってるわけだ。
「嫌だぁっっ!」
「…連・帯・責・任。なに、似合ってるから安心しなって。なぁ?」
 ロンの呼びかけに全員がうなづいた
「そんなのっ」
「日々の訓練によって鍛え上げられた、平均十七歳の男が女子高に混ざれると思うかぁ?ん?」
 キアは、スカートをはいて微笑む皆の姿を想像して吐き気を覚えた。
「・・・・わかった。やるよ」
 ぽつりとキアは呟いた。
「いやぁー、楽に決まったなぁ」
 と、ロンがまたバンドのメンツについて考えていると、その肩を別の学生に叩く。
「じゃ、”お前ら”で決まりな」
「………へっ?」
「よーし、残りは何とかなるな。喋るのが得意な奴は――――」
 もしかして俺は重大な見落としをしてるんじゃあ…。
 ロンは恐る恐るさっきのリストを見た。

――――エルセス女学院……”(二名)”。

 ロンは思い出した。
 実習中の基本原則、”ペア行動”。
「……のおぅっ!!」
「まぁ、ロンも童顔だから似・合・う・よ・な・ぁ」
 キアが言葉を強調させながら話した。


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絵:[着せ替え/-A'/-B'][上も着るの?/リボン/ポーズ]


女子高入学ネタ提供、紅子様。多謝。
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2:お姉様と呼ばないで



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